物語はその日のうちに

人間が人間として自然に生きることを考えています

周防大島物語

  ある、海と山に挟まれた小さな町に、翁が住んでいた。ある日、遠くから孫とその母親が遊びに来たので、一緒に海へ行くことにした。孫はもうすぐ2歳になる。

  孫と並んで歩いていたが、母親を求めて引き返してしまった。後ろ姿をたしかに見たと思ったが、孫はそのまま消えてしまった。

  家族みんなで探しても探しても、孫は出てこなかった。そのうち町の者が集まってきて、みんなで探した。ある者は、誰かに連れ去られたと言った。またある者は、鷹に捕って食われたと言った。2日経っても出てこないので、もうどこかで死んでいると思われた。

  翌朝、山の向こうから、見たこともない男がやってきた。男は、お前の孫がどこにいるか分かると言った。孫はまだ生きていると言った。そして山を登りはじめた。名前を呼びながらしばらく行くと、孫が「おーい、ここだ」と応えた。孫は苔のむした岩の上に座っていた。飴をやると、そのまま噛んで食べた。男は孫を抱いて、翁と母親に返した。みんな喜んだ。死んだと言った者は、たいそう驚いた。

  男は、初めてこの町に来たそうである。子をこの世に引きとめたので、崇められ、感謝された。祝いの宴が終わると、自分の国へ帰って行った。